おしぼり産業から生まれた技術を、世の中に広めていく。
2024.03.29
全てのポケットおしぼりに採用されている、ポケットおしぼりを支える技術「VB(ブイビー)」についてご紹介させていただきます。
*この記事は、2019年7月に発行された社内報「読むおしぼり」からの抜粋となります。
VBは、東京工業大学と慶應義塾大学発の合同ベンチャーの共同研究によって生まれた抗ウイルス・抗菌を安全に叶える特許技術(特許第6739772号)です。おしぼりに水溶液をしみこませることで、ウイルスや菌を99.99%以上も抑制することができ、衛生環境を守ってくれます。
この新しい抗ウイルス・抗菌技術はどのように誕生したのでしょうか。開発に自ら尽力したFSX株式会社代表取締役社長の藤波克之に当時の様子を振り返ってもらいました。
──VBが生まれるにあたって、きっかけになる出来事はあったのでしょうか?
菌やウイルスに興味を持ち始めたのは、今から10年ほど前の2009年。関西でインフルエンザが大流行し、海外のエアラインに関わる商社から「ウイルスに対処するためのおしぼりはないか」と問い合わせを受けたのがきっかけです。当時の私は他業界の技術を持った会社に対して憧れがあり、独自の技術を持つことで自業の幅を広げられるのではと考えていました。
そして、菌やウイルスを意識し始めるようになって程なく、当時、慶應義塾大学医学部に在籍していた団先生(現・一般社団法人 生物活性研究機構 代表理事)と出会い、「ポリ酸を活用した新技術をおしぼりに活用できないか」と相談を受けました。当時、団先生は慶應義塾大学と東京工業大学の合同ベンチャーで研究を進めていた新素材の活用先を模索していたところだったのです。そこで私たちはポリ酸原末を水溶液にしておしぼりを浸し、その変化を専門機関で調べてみることに。すると、想像以上のデータが得られました。厚生労働省の定める衛生基準を満たす一般的なおしぼりは時間の経過とともに菌が繁殖してしまうのに対し、その水溶液に浸したおしぼりは2週間後でも菌は増えていないどころか、減っていって、ウイルスも抑制できていたのです。常識を覆す結果に興奮しましたね。
──そこからどのように商品化を進めていったのですか。
そこから1年くらいかけて、団先生と私たちでさらに正確なデータを入手するための研究を行い、製造方法の特許出願にも奔走しました。新技術には『VB(ブイビー)』と名前を付け、ドバイで開かれた学会で研究内容も発表。私自身もドバイに行き、海外の関係者向けに一人で説明することもありました。正直、あんなに夢中で勉強した経験は初めてです。調べ物をしていて、気づくと朝だったということもよくありましたね。また、勉強を進めるなかで”手指衛生”という言葉とも出会い、もしかしたらVBがあれば「手指からの感染を防ぐ、手指衛生のためのおしぼり」という提案もできるのではないかと考えるようになりました。そして2012年3月、VB技術を採用した貸おしぼりのサービスを正式にリリース。貸おしぼり業界だけでなく、他業界からも「興味がある」という問い合わせを多くいただきました。
──開発にあたり、他に苦労したことはありましたか?
リリースから少し経った梅雨の頃、社内運用テストでおしぼりにカビが発生する事象が見られました。研究や評価レベルでは良かったものが、商品として大量生産する過程で様々な環境に影響を受けてしまい、品質が安定しなかったのです。私の説明不足もあったのだと思いますが、社内では「(生産を)やめましょう」という声も上がりました。会社内の信頼も失い、正直いつ立ち消えてもおかしくないほどのピンチでした。試行錯誤を繰り返す中、ふとしたきっかけから三菱鉛筆の研究チームの方々にご協力をいただき、VBの品質を安定させるための調査をしていただきました。そして、おしぼりの異変はVB原末の溶解方法と水質に問題があることが分かったんです。VB水溶液の製造は大学発のベンチャー企業に一任していましたが、品質を安定させる製造方法の確立はとても困難だったようです。しかし、私としてはおしぼり産業からせっかく誕生した技術の火を消したくありませんでした。そこで、自社でVB水溶液の製造を始めることを決断。(イオン交換水設備を導入した)クリーンルームを工場内に設置、団先生に立ち会って頂きながら私自身も白衣を着て工場長の紺野と共に実験を重ね、製造技術の確立に努めました。そうして完全に軌道に乗ったのは2016年くらいかな。その後は、私が孤軍奮闘で進めてきたVBの社内体制を進化するべく、衛生管理課を立ち上げ、昨年からは業界内外により広めるためのブランディングや広報活動にも力を入れはじめました。
──様々な壁を乗り越えてVBがあるんですね。
あの時、団先生と出会っていなかったら…、三菱鉛筆の研究チームの方のご協力やご支援がなかったら…、今のVBは生まれていなかったでしょう。また、その他の多くの方々のご縁にも感謝しています。長い道のりを経て生まれた技術をこれからも大切にしたいですね。もちろん、VBの用途はおしぼりに限らないと考えています。現在では、貸おしぼりだけでなく、当社の使い切りおしぼり『Pocket Oshibori(ポケットおしぼり)』やその他の業界に向けても活用の幅を広げるべく、研究開発は続いています。将来「VBマークは安全の印」と認知されるくらい、暮らしの中に浸透していければと思います。これからのVBの活躍を楽しみにしていてください。
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